『名ばかり管理職』(NHK「名ばかり管理職」取材班)-0059


働き方の本が続いているので、その流れで。

一時期に比べて、この「名ばかり管理職」の問題は形を潜めている気がする。しかし、根本的な問題が解決されたわけではないだろう。

結局の所、名ばかり管理職が示す致命的な問題は、企業が人件費をコストとしか捉えていないということだ。もちろん、競争が厳しくなる中で、値下げ圧力というのはあるのだろう。他をギリギリまで下げて、いよいよ手を付けるのが人件費なのかもしれない。

それでも、人を使い捨てるような企業は、スキルもナレッジも蓄積しないわけで、やがて競争力を失うのは目に見えている。そんなことは、少しでも先のことが考えられる経営者であればわかることだろう。

ようするに、それがわからないほど無能な人間が経営者になっているのか、それともわかっていてもそうせざるを得ない状況に追い込まれているのかのどちらかというわけだ。どちらにせよ、救いはない。

実際、人件費をギリギリまで__労働者の健康で文化的な生活を阻害するほど__下げなければいけないのならば、その企業は実際はもう潰れているのだ。人件費の圧縮という形で手形の不渡りを防いでいるだけ。もう先はないのだ。

もちろん、不況の発生によって、一時的に人件費を削減することはあってもよいだろう。でも、それは「一時的」という限定が付く。人件費をそこまで下げなければ、経常的にやっていけないというのであれば、もうそれは終わっているのだ。延命処置をしているに過ぎない。

きちんと売り上げが作れ、そこからさらに利益を生み出せていること。それが持続可能な企業の一つの指標である。そのバランスシートをごまかす手段が「名ばかり管理職」なのだが、そんなものは長続きしようがない。

でもまあ、自分が社長の椅子に座っている間だけ持ちこたえたらそれでいい、と考えているならば、話は変わってくるからなかなか厄介なのだが。

ともあれ働き手は、企業は自分の面倒をみるために存在しているわけではない、という自覚を持たなければならない。いささか哀しい自覚ではあるのだが、どうしようもない。いざとなったら、無責任と罵られようとも逃げるのが良い。三十六計逃げるにしかず。