『働くということ』(黒井千次)-0057


『働くということ』とタイトルは同じだが、方向性は逆である。

こちらは、著者一人の「働く」という実体験を追いかけている。一人の人生の中の「働くこと」について。それを振り返りながら、働くことが人生に与える影響について考察されていく。

働くことについて考えるためには、複数の働き方について知っておきたい。しかも、知識だけでなく実体験として知っている方が望ましい。少なくとも、その方がうまく相対化ができるだろう。

実際、サラリーマンとフリーランスは同じ所も多いが、違うところも多い。それは労働条件だけの話ではなく、収入の量でもなく、この社会の中にいかに位置づけられるのか、ということも含まれる。

そうした社会からの作用は、契約書を眺めているだけでは決して見えてこない。

仕事というものは、私たちと社会を接続するものである。ある種のメディアと言うこともできるかもしれない。人生の長い時間を仕事に費やすわけだから、それについてはできるだけいろいろなことを考えておきたいところである。