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Rashita

まずは、1000をめざします。

『ブッタとシッタカブッタ』(小泉吉宏) -0040


いろいろな勇気を持つよりも、心の動きについて知る方が、案外良いのかも知れない。

心を機能として捉える。そして、それがどんな働きを持っているのか観察する。心をそぎ落とすことはできない。かといって、振り回される必要もない。現象論であり、認知論でもある。

弱い心を叱責しても仕方がないのだ。かといって夢みたいなもので、見て見ぬ振りすると、あとでツケが回ってくる。

自分という存在について考えること。たぶん、哲学の最初の一歩でもあり、文学の最初の一歩であるのかもしれない。

『情報の家政学』(梅棹忠夫)-0039


大切なことがいくつか書いてある。

一つは、家庭の中の情報について。情報化社会では、情報は象牙の塔の中だけにあるわけではない。ビジネスの現場、そして私たちの生活の中にも広がっていく。

個人が情報を持つのならば、個人の集合体(共同体)である家庭も情報を持つ。それをどう扱うのか、というのはある意味で家庭科の需要で扱われてもよいのかもしれない。あるいは、情報という科目の中に、そうした項目を設定するのか。

もう一つ、こんなことが書いてある。

「人間の根本的な生きがいと関連して、物質や機能だけではぐあいがわるいと人びとがしだいに気づいてきた」

1970年の文章である。結局、本当にこれが意識されたのは2000年以降、あるいはもっと最近になるのかもしれない。

逆に言えば、それだけ「ものづくり」の社会が強く残存していたのだろう。しかし、ものから情報のシフトは止められない。

その他、『知的生産の技術』を面白いと思った人ならば楽しめる話が多い。




『ロボットの時代』(アイザック・アシモフ)-0038


アシモフの短編集。<ロボット法三原則>が頻繁に登場している。

八つの短編が収められているが、印象的なのは「校正」という最後に収められた一編であろう。

なんと、論文の校正をしてくれるロボットが登場する。著者は、ちまちまと誤字を探さなくても良くなるのだ。しかし、……。

本編で展開されるお話は、現代の物書きにとって、いや未来の物書きにとって切実な問題を含んでいる。後半にある、アンチロボット派のニンハイマー博士の叫びは、いっそ滑稽ですらあるが、すでに現実的な問題として私たちの前に広がっている。

「書物というものは著者の手で造型されるべきものだ」

その悲痛な叫びと、ロボットと人間が握手している表紙の対比が、本書の印象をより深いものに変えている。


『村上龍対談集 存在の耐え難きサルサ』(村上龍)-0037


村上春樹さんを好んで読むが、村上龍さんもよく読んでいた。

いま見ると、すごい対談相手ばかりである。冒頭にある中上健次さんとの対談は、ハイコンテキストすぎて3割ぐらいしか理解できないが、それでも面白い。

今読み返してみて興味深いのは庵野秀明さんとの対談(「何処にも行けない)」だ。村上龍さんの小説が、読者にイメージを強要する、という指摘は面白い。映画よりも映像的な小説。

もう一つ、エヴァは本来サブカルにしかならないという庵野監督自身の指摘も興味深い。あの作品に共感する人が多いこと自体が、この国で行き詰まりを感じている人が多いことの表れではないかと庵野監督は述べる。たしかにそうかもしれないし、そうではないかもしれない。

『不可能、不確定、不完全』(ジェイムズ・D・スタイン)-0036


数学と物理学がテーマのお話だが、小難しい数式はあまり登場しない。出版業界のあのまことしやかな<法則>から考えても、この本の売り上げは安泰、というわけだ。

本書では「ハイゼンベルクの不確定性原理」「ゲーデルの不完全性定理」「アローの不可能性定理」の3つが扱われている。心配は必要ない。数式の出現密度が低いだけでなく、身近な話を用いて、わかりやすく解説されている。

実生活にどれだけ役立つのかと言われれば、残念そうに首を横に振らざるを得ない話なのだが、実に魅力的なお話が繰り広げられている。この世界がどのようにできているのか。その理解こそが、教養へ至る道なのかもしれない。

『人間と動物の病気を一緒にみる』(バーバラ・N・ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ)-0035


「ヒトの病気の治し方は、動物に聞け!」

という帯の文句はいささかうさんくささが感じられる。しかし、よくよく考えてみれば、人間だって動物なのである。だからこそ、人間に試す前に、動物実験というものが行われるのだ。

たしかに人間は他の動物とは異色な存在なのかもしれない。でも、動物である、点を共有していることも確かなのだ。

人間と、その理性を特別視するのは、人間にとって重要なのかもしれないが、それによって見過ごしてしまうこともあるのだろう。

そんなことを考えているが、まだ読み切ってはいない。でも、冒頭からぐっと引き込まれる本である。

『ソクラテスと朝食を』(ロバート・ロウランド・スミス)-0034


朝起きてから、夜眠るまでの「日常生活」の中に潜む哲学。それをじっくり考えていく、という一冊。『100の思考実験』と方向性は近い。

よくよく考えてみると、日常には不思議なことが山ほど眠っている。私たちが朝起きて自覚する「意識」、これは一体何なのだろうか。あるいはごく当たり前のように行っている「仕事」にはどんな意味があるのだろうか。考えはじめれば、疑問は次々と浮かんでくる。それと真正面からぶつかるのが、哲学の一つの実践である。

そもそも、ソクラテスは「よく生きること」の大切さを説いた。「よく在ること」ではない。だからこそ、日常生活のさまざまな行いに目を配る必要があるのだ。

『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト)-0033


戦略は、立てればよいというものではない。

機能する戦略もあるし、そうでない戦略もある。では、良い戦略とはどのようなものであるか。それを、悪い戦略との対比から考察する一冊。

本書で掲げられる「悪い目標」を私たちは日常的に目にするので、本当に苦笑してしまう。悪い目標は、空想的で困難な課題から背けながらも、何か形のあるものを生み出したような感覚を与えてくれる。あげく、対外的なアピールにも使える。だから、量産される。企業だけの話でもない。

本書は良い戦略作りの助力にもなるだろうが、それ以上に悪い戦略を選り分ける目も養ってくれるだろう。それは空疎な言説が踊り狂う現代で、非常に有用なはずだ。

『100の思考実験』(ジェリアン・バジーニ)-0032


ともかく無性に面白い。学問としての哲学ではなく、「考える」ことが好きならば、間違いなく楽しめる一冊だ。

名前の通り100の思考実験が紹介されている。どれも奇妙な状況だが__だからこそ、思考実験をするのだ__、昔から哲学者が考えてきた問題が著者の解釈のもと、現代風にアレンジされたものであり、ある種の馴染みやすさがあるかもしれない。

なので、読んでいるうちに、学問としての哲学にも少しばかりは知ることができるだろう。が、そういうのはまったくおまけである。基本的には「考える」というそのプロセスの泉に、自分の思考をえいやっと突き落とす。そんな一冊だ。ジタバタもがいてみるのが、大変楽しい。

『小説作法』(スティーブン・キング) -0031


文章を書くことについて、特に小説を書くことについて何か本を挙げろと言われたら、真っ先にこの本が思い浮かぶ。村上春樹さんの『走ることについて語るときに僕の語ること』も思い浮かぶのだが、そちらは技術的な話が案外少ないのだ。

私は本書を何度も読み、ごくシンプルな二つの方針を学んだ。

一つは、無駄な言葉を省くこと。
もう一つは、ドアを閉じて書き、ドラを開けて書き直すこと。

私が優れた物書きであるかは別として、この方針を常に意識してきたことだけは間違いない。もちろん、意識したからといって確実に実践できるわけではないが、方向性みたいなものは生まれてくるだろう。とりあえずは、それで満足するしかない。

本書に収められた、「文章とは何か?」という短い文章は非常にインパクトがあった。なにせ書き出しが、「もちろん、テレパシーである」だ。そう、それはたしかにテレパシーなのだ。そのことのすばらしさを、そして恐ろしさを書き手は意識しなければいけない。

『リファクタリング・ウェットウェア』(Andy Hunt)-0030


オライリージャパンの本であるが、プログラミングの本というよりも、知的生産の本、といった方が印象は近いかもしれない。

ウェットウェアとは、wet + softwareからなる言葉。(コンピューターの)「ソフトウェア」を身につけたもの。言い換えれば、私たち自身の「考える」という行為を、コンピューターシステムからの類推で捉えたもの。

私はよく、「思考のアプリケーション」といった言い方をするがそれに近い。「脳の鍛え方」だと、微妙なうさんくささが漂うのだが「リファクタリング・ウェットウェア」だと妙にカッコイイ。まあ、私がミーハーなだけなのかもしれないが。

内容的には、ライフハック・マインドハック的なものが詰め込まれているのだが、すごく面白い。きっちり体系立っているかと言われれば微妙なのだが、表紙を開いたときに出てくるマインドマップでもうやられてしまう。不思議な魅力がある本である。



『ソードアート・オンライン アリシゼーション・ビギニング』(川原礫)-0029


私の中で、川原礫という作家の認識が一段シフトした作品。

ソードアート・オンラインシリーズでは、第九巻にあたり、第四部が本書から始まる。途中にある「オープニング」の仕掛けには、背筋がぞっとしてしまった。もちろん、恐怖ではなく、鳥肌的な意味だ。

しかし、この感覚は特定の世代にしか(あるいは、ある体験を経てきた人しか)通じないだろうな、という気もする。理解力の話ではない。体験の有無が、ものをいってしまうことはやっぱりあるのだ。

それはつまり、時代によって「文学」なるもののフォーマットが変わりうることも示している。

それはそれとして、きっと誰も知らないだろうが、(拙著)『アリスの物語』のアリスが、アリスという名前なのは、本作へのリスペクトが多分に含まれている。安易にアリスという名前を持ちだしたわけではないのだ。

高度な知性、あるいは感情、はたまた(自)意識を持っていると観測できるAI。しかも、女の子のAI。これに名前を与えるとすれば、アリスしかなかった。もちろん、他の「アリス」からも影響を受けているわけだが、イチイチ名前を挙げたりはここではしない。

脳が「現実」なるもののシミュレーターとするならば、私たちはその中でどのように生きていけばよいのだろうか。川原礫は、それを機械的なシミュレーターを持ち出し、対比させることで描き出している。

それでいてちゃんとエンターテイメントでもあるのだから、脱帽するしかない。

『愛について語るときに我々の語ること』(レイモンド・カーヴァー)-0028


17の短編が収められた、カーヴァーの短編集。

カーヴァーは、小さなシーンをシュッと切り取る。そこには、いささか奇妙なシーンもあるし、一見日常的なシーンもある。なんであれそれらのシーンは、私たちに何かを直接的には語りかけない。大声で日本の政治を変えます、などとアピールしてきたりはしない。

でも、そこには何かしら手応えというものがある。中身は見えないけれども、大切なものが入っている感触のある箱を渡されたような気分になる__つまり暗示的なのだ。

説明を必要とするが、説明されるともろく崩れてしまうようなそんな箱は、こうした文学の中でのみ見いだせる、というのは少々言いすぎだろうか。

ともかく僕はカーヴァーの作品が好きだ。最後の一行を読み終えた時に、どこか自分だけが取り残されたような気分になる彼の作品が好きだ。その空白が、僕にイメージを強要するのだ。

『機械より人間らしくなれるか?』(ブライアン・クリスチャン) -0027


似たものが登場することで、既存の当たり前と思われたものが相対化されることはよくある。現代なら、紙の本と電子書籍がそれだ。その二つを比べてみることで、物事の本質に深くアプローチできる。

本書では、人間と人間に近しいもの__AI__の対比が行われている。SFでは珍しくない風景だ。しかし、本作はノンフィクションである。さらに言えば、舞台設定が面白い。

AIの「人間らしさ」を測るテストに、人間が出場するのだ。

さて、あなたならどのような戦略を採るだろうか。ごく普通に人間と対話する? それとも、対話相手が「人間らしい」と思うような対話を心がける。

じゃあ、「人間らしさ」って一体何なんだろうか。

という本なのではあるが、分厚いのでまだ読めていない。でも、読まなくても面白いことはカバーから伝わって来る。そういう本だ。

[MM]GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 -0026

GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代
アダム・グラント
三笠書房 (2014-01-08)
購入:2014年6月21日



なぜ「与える人」が成功するのか。

ポイントは「与えれば成功する」ではないこと。見返りを求めて与えるならば、それは本書で言うテイカーとなる。

そうではなく、単に与えること。

そのためには、自分が与えることに喜びを感じること(あるいは、与えないではいられないもの)を見出すことが不可欠になるだろう。

[MM]数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫) -0025

数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)
結城 浩
筑摩書房 (2014-12-12)
ISBN:9784480095268
1,026円
購入:2014年12月12日 1,026円


不思議と、嬉しさを感じる本である。

何が嬉しいのだろうかと考えてみると、この本に込められたメッセージであることに思い至る。いちいちここで説明する必要はない。本書を手に取れば、すぐにでもあなたの心に響いてくるだろう。

そのメッセージが、ひとりの文章の書き手としての僕の心を温めてくれる。

楽して文章を書くことはできない。でも、手を掛けるだけの価値が文章にはある。少なくとも、僕はそう感じているし、信じてもいる。


[MM]ソードアート・オンライン プログレッシブ (3) (電撃文庫) -0024

ソードアート・オンライン プログレッシブ (3) (電撃文庫)
川原礫
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2014-12-10)
ISBN:9784048690966
680円
購入:2014年12月11日 680円
読了:2014年12月12日

一階から攻略していこうぜシリーズ第三弾。今回は第四層。水路マップ。

徐々にキリトのビーターとしての優位性が薄れていくことが示され始めている。

ゲームの外に出ないので基本的にファンタジーだが、キズメルとの対話などで、SF的文学的な本編の風味も漂う。

[MM]シルシ - LiSA -0023

シルシ - Single
LiSA
600円
購入:2014年12月11日 600円
「ソードアート・オンラインⅡ」《マザーズ・ロザリオ》編のエンディングテーマ。作品の余韻を引きずったまま聞いていると泣きそうになる。ユウキ役の悠木碧が良い演技をしている(しかし、名前がややこしい作品だ)。

しっとり、じっくり、高らかに歌い上げるバラードは、案外アップテンポな曲よりもLiSAの魅力を引き出しているのかもしれない。

[MM]日本の思想 (岩波新書) -0022

日本の思想 (岩波新書)
丸山 真男
岩波書店 (1961-11-20)
ISBN:9784004120391
756円
購入:2014年7月1日 756円
読了:-



4編収録。

1 日本の思想
2 近代日本の思想と文学
3 思想のあり方について
4 「である」ことと「する」こと

1と2は、難しい。
3と4は、読みやすい。それでいて非常に示唆に富む。この二つだけでも十分読む価値あり。


[MM]demi - another - -0019

demi - another -
犬子 蓮木
もふもふ出版 (2014-10-28)

@sleeping_husky さんのセルフパブリッシング本。

『demi - spring and autumn -』『demi - winter and summer -』という本の続編にあたるらしいが、特にそれらは読まずに挑戦。問題なく読めた。

独特の透明感がある作品だ。透明感というか、欠落によるイノセントと言うべきかもしれない。ある種の濁りが抜け落ちた存在。そして、奇妙なほど静かにそれを受け入れている。物語自体も、それに呼応するように静かに幕が引かれる。

犬子さんの作品は、いくつか読んだことがあるが、どの作品からも「欠落」が感じられる。それは単純な喪失とは少し違う。ようするに欠落というのは、持てる物から見たときにそう感じるだけであって、当人からすればそれが当たり前なのだ。しかし、その違った「当たり前」が交錯するときに、何かが生まれる。生まれてしまう。

ちょっと気になったので、『demi - spring and autumn -』も読んでみることにしよう。